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  • 執筆者の写真Akira

スポーツ現場における心臓突然死とアスレティックトレーナー 。


(Credit: Los Angeles Daily News)


前回の記事は、スポーツ活動中に起こる突然死 (Sudden Death)についてでした。今回の記事では突然死の一つの原因である心停止(Sudden Cardiac Arrest)による死亡、心臓突然死 (Sudden Cardiac Death; 以下SCDとします。)についてまとめます。


スポーツ活動中の心臓突然死

アスレティックトレーナー として働いている人、勉強中の学生アスレティックトレーナー であれば想像がつくと思いますが、SCDはスポーツ活動中における突然死として最も多いケースとして報告されています(Wasfy et al., 2016)。


日本の部活動における突然死に関する調査でも、SCDが部活動中に起きた死亡事故の中でも最も多かったと報告されています (Hosokawa et al., 2020)。


スポーツ界で広く知られているSCDのケースとしては、元サッカー日本代表の松田直樹選手のケースがあるのではないでしょうか。個人的には、日本のスポーツ現場におけるAEDの普及がこの辺りから急激に進んでいったように記憶しています。


AEDが普及し始め、様々な団体がAEDの普及とともに心肺蘇生法教育を行っていますが、このようなスポーツ現場における不測の事態に対応できるアスレティックトレーナーのような専門家の普及はまだまだ進んでいません。


アスレティックトレーナー 発祥の地であるアメリカでは、多くのスポーツ現場でアスレティックトレーナー が活動し、プロスポーツはもちろん、小学生や中学生のスポーツ大会やスポーツキャンプなどまでアスレティックトレーナー が在中することが多いです。


アメリカでは夏休みの期間中、多くの大学が地域の子供達を対象に大学でスポーツキャンプを実施することが多いですが、主催側がアスレティックトレーナー をパートタイムで雇って緊急事態に対応できるスタッフを用意します。

(筆者がパートタイム(アルバイト)でカバーした、大学における地域の小中学生を対象にしたサマースイミングキャンプ。)


(スイミングキャンプは大学内で数日に渡って寮に宿泊しながら行われ、筆者も数日間つきっきりで緊急時に備えて待機したり、傷害の評価やケアを行いました。)


サマーキャンプなどのパートタイムは、大学勤務のアスレティックトレーナー が駆り出される(もちろん有償で)こともありますし、地域の病院やクリニックで働くアスレティックトレーナー が派遣されることもあります。


AEDの普及や心肺蘇生法教育に加えて、緊急時に対応できるスポーツ傷害のスペシャリストであるアスレティックトレーナー の普及は、安全なスポーツ活動の提供のために非常に価値のあるものであると個人的には思っています。


スポーツ選手の心臓突然死の原因


Wasfyらによるスポーツ選手のSCDに関するレビューによると、その原因は先天性及び遺伝性 (Congenital/Genetic)後天性 (Acquired)の二分類に加え、心臓の構造上の以上の有無 (Structually Normal Heart/Structually Abnormal Heart)による分類を組み合わせた、計四種類に分類されるようです。

(Wasfy et al., 2016)


あまりにも分類が多いので全部の説明は省きます(病名を訳すだけでも一苦労。。。笑)が、Wasfyらはアメリカのスポーツ現場において、肥大性心筋症 (Hypertrophic Cardiomyopathy)と先天性冠状動脈異常 (Congenital Coronary Artery Abnormalities)が最も共通するSCDの原因だとしています。


日本における研究ではTakatsuらが、ユース年代における心臓突然死の原因として、Wasfyら同様に冠状動脈に関連する異常の他、特発性心筋症や間質性心筋症など、その他いくつかを上げています。


ちなみに、アメリカのカレッジアスリートを対象にした研究 (Harmon et al., 2015)では、10年間の調査で発生したSCDの死亡事故のうち25%が心臓に構造的な異常が見られなかったそうです。裏を返せば、75%は構造的な異常を伴うもので、スポーツ活動に関連したSCDはスポーツ活動に参加させる前に細かな検査をしたり十分な対策をすることで防げる、ということもできるかもしれません。


以上に上げた全てのコンディションをアスレティックトレーナー が熟知する必要はないと思いますが、自身が接することの多い年代において、発生するリスクの高いものに関しては少し細かく勉強をしても良いかもしれません。


スポーツにおける突然心臓死を防ぐために。スクリーニングの重要性。

スポーツ中の予期せぬ突然心臓死を未然に防ぎ、その発生のリスクを最小限に抑えるために必須な事は、スポーツ参加前の健康診断・スクリーニングである事は言うまでもありません (英語ではPre-Participation Exam、 通称PPEと呼ばれます)。これはSCDに限らずスポーツに関わる全ての傷害関して言えることです。


このスクリーニングには問診や心電図など一般的なものから、心エコーやストレステスト、心臓MRIなど、より一歩踏み込んだものもあります。


プロスポーツや大学スポーツなど、ある程度資金やスタッフや設備が揃っている場所であれば別ですが、ユース年代ではこの辺りのサポートはかなり難しいかもしれません。


アメリカ時代、私が以前働いていたサッカーチームのユースクラブでは、高校年代の選手に対しては近隣のクリニックでチームとしてPPEを行ったり、それ以下の年代には主治医のもとでのスクリーニングを行わせ、その結果を提出させてアスレティックトレーナー がリスクのある選手を把握していました。


日本のユースレベルでこのようなスクリーニングがチーム単位で行われているかは不明ですが、選手の命を考えればPPEをの実施は必須です。学校検診ではすでに突然心臓死に関わるスクリーニングが長年やられているようなので、部活動では学校検診結果を活用すれば良いのではないかと思います。


地域のクラブスポーツにおいては、学校検診の結果を提出してもらい、あらかじめリスクのある選手把握したり、緊急時の対応をスタッフ間でしっかりと共有したり、できる事はたくさんあります。親の協力を得て生徒各自で病院やクリニックに行って健診をあらかじめ受けてもらう、というのもありかもしれません。


その反面、選手の安全を確実に確保しようとすると、このようなスクリーニングを充実させなければなりませんし、スクリーニングデータの管理やそれを反映させた安全管理システムの構築にはある程度の専門知識が必要になってきます。


本ブログで繰り返し述べてきた事ですが、これらのことはアスレティックトレーナーの得意分野であるのですが、現状として地域の部活動やクラブスポーツ単位でのアスレティックトレーナー がしっかりと生計を立てて活動できる場は多くはありません。


一つの解決策として、地元の整形外科などに所属し、ドクターの監察の元でその地域のクラブスポーツのPPEをオーガナイズしたりもできるかもしれませんが、法律のとの兼ね合いもあると思いますし、実際にそういったことができるかは不明です。


まとめ

  • スポーツにおける突然死で最も多いのが心臓突然死 (SCD)

  • SCDを防ぐための事前スクリーニングは必須

以上、スポーツ活動中の突然心臓死についてまとめましたが、個人的にはAEDの普及や心肺蘇生法教育に加えて、PPEの重要性がもっと広まれば良いなと思っています。


傷害予防と一緒で、起きた時の対処も大事ですが、その発生を如何に防ぐかはもっと大切ですし、その予防のプロは外でもないアスレティックトレーナー です。


Akira


Reference

Harmon, K. G., Asif, I. M., Maleszewski, J. J., Owens, D. S., Prutkin, J. M., Salerno, J. C., Zigman, M. L., Ellenbogen, R., Rao, A. L., Ackerman, M. J., & Drezner, J. A. (2015). Incidence, Cause, and Comparative Frequency of Sudden Cardiac Death in National Collegiate Athletic Association Athletes: A Decade in Review. Circulation, 132(1), 10–19. https://doi.org/10.1161/CIRCULATIONAHA.115.015431


Hosokawa, Y., Stearns, R.L., Murata, Y., Yamanaka, M., Casa, D.J. (2020, June 17-December 31). Epidemiology Of Sudden Death In Organized School Sports In Japan. [Conference ePoster abstract]. American College of Sports Medicine 2020 Virtual Experience. Retrieved June 18, 2020, from https://virtualmeeting.ctimeetingtech.com/acsm2020/attendee/eposter/poster/1251


Takatsu, A., Shigeta, A., Murata, S., Kuniyoshi, N. (1990). Sudden Death during Sports ―Statistical and Cardiac Pathological Analysis of Autopsy Cases―. Descente Sports Science, 11(7), 32-45. http://www.shinshuu.ac.jp/faculty/textiles/db/seeds/pages/75857/en.php


Wasfy, M. M., Hutter, A. M., & Weiner, R. B. (2016). Sudden Cardiac Death in Athletes. Methodist DeBakey Cardiovascular Journal, 12(2), 76–80. https://doi.org/10.14797/mdcj-12-2-76

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