スポーツ傷害、特に急性の怪我において、長年 "gold standard"として使われてきたRICEについて、これまで二つの記事にわたって、その是非について話をしてきました。
それらを読んでくださった方々は、すでにお分かりだと思いますが(伝わっていて欲しい)、より効果的にリハビリを進めるにはRICEをしてじっとしていることはベストとは言えません。
むしろ、怪我してから出来る限り早く、かつ痛みが最小限の範囲で患部に負荷をかけていく(Early Loading)ことが大切になってきます。
これが競技スポーツをやっている人であれば尚のことです。何故か?
安静にすればするほど患部の機能は落ちていくからです。もちろん身体全体の機能も同様です。
「RICEのやりすぎはよくないことはわかったけど、じゃあ怪我してから実際にいつから患部に負荷かけて行ったら良いの?」
という声が聞こえてきそうなので、今回は怪我をしてから実際に患部を動かし始めるまでを具体例を交えて説明していきたいと思います。
***今回の記事はあくまでも私個人の知識、経験に基づいたもので、すべての怪我・ケースに当てはまるものではありません。参考にされる場合は必ず専門家に直接相談の上リハビリを進めるようお願いいたします。***
いつまでアイシングなどのRICE処置をするか
記事を跨いでの繰り返しになりますが、私はアイシングをはじめとするRICEが完全なる悪者だとは思っていません。
特にアイシングは、怪我をした直後は痛みを軽減したり、腫れが悪化するのを防いだりするのに有効なツールです。
ほぼコストゼロで誰でもアクセスできるという意味では非常に優秀な選択肢だと思います。
ただ、スポーツ傷害と誤ったRICE処置による弊害の記事でお伝えしたように、怪我がしてからも何日何週間とアイシングをすることは理想的なケアではありません。
私がアイシングを止めるタイミングで大切だと考えるのは痛みです。
「アイシングはしても良いけど、痛みが落ち着いて、アイシングなしでも大丈夫になったらやめてね」
私がアイシングをさせる場合は、選手にはこのようにアドバイスします。
痛みが峠を終えて落ち着いてきた、もしくは軽減してきたタイミングが、アイシングを止める、もしくは完全に辞めなくても頻度を落とすタイミングになります。
とは言え、選手によってはアイシングをすることで安心感を覚える選手もいることも確かです。
なのでこういったケースでは、リハビリが終わったタイミングで、アイスバッグを巻いてあげて、その時だけ患部を冷やしてあげることもあります。
病は気からと言うように、選手が安心することで痛みが和らぐもあるので、そこは柔軟に対応します。
今この記事を読まれている方が選手であれば、自分自身のことはよくわかっていると思います。
また、部活の指導者の方であれば、選手の性格などを見て状況に応じたアドバイスをしてあげると良いと思います。
繰り返しになりますが、痛みがフェードアウトしていくとともに治療としてのアイシングを中心としたRICEもフェードアウトさせていくのが良い、というのが私の意見です。
いつから患部を動かし始めたら良い?
「アイシングを止めるタイミングはなんとなくわかったけど、いつから患部動かしていいの?」
「医者には包帯ぐるぐるにされて、とにかく1週間は安静にって言われたけど、どうなの?家ではもう歩けるくらいなんだけど。。。」
リハビリに関する細かなアドバイスをくれる専門家がいない場合、この手の疑問は良くあることだと思います。
ここでも私が個人的に指標とするのは痛みレベルです(多くのアスレティックトレーナー がそうだとは思いますが)。
例えば、足首の捻挫を例にとってみましょう。最初はあんまりにも痛くて歩くこともままならず、見てもらった整形外科の先生に
「あー、痛くて歩けないんじゃ、2−3週間は最低でも安静だねー。湿布も出しとくから、3週間経ったらまた来てください。」
と言われ、シーネで固定されて、松葉杖で返されることはまだまだ少なくないケースだと思います。
ただ、帰って2−3日したらすっかり痛みが引いて、松葉杖なしでも家の中を歩けるほどに回復してしまうケースも往々にしてあります。
これは例えば、痛みにあまり慣れていない選手が、軽度の怪我でも大きな痛みを感じてしまったり、色々理由はあります。人によって痛みの閾値(Pain Threshold)は違います。
私がもしこの選手の治療・リハビリを担当していたら、すっかり痛みが落ち着いて歩けるようになったと知った時点で、患部を保護するのではなく極力動かしていく段階に移行させていきます。
それがたとえ教科書的にまだ2−3日しか経っていない急性炎症期だとしてもです。
リハビリ、特にアスレティックトレーナー のようなスポーツに特化したリハビリの専門家が周りにいない場合に起こりうるのは、
「整形外科の先生からは3週間安静って言われたから、あんま痛くないけどとりあえず松葉杖使って、痛めたとこにストレスかからないようにしようー。」
といったケースです。
こういったことが起こらないように、整形外科の先生にみてもらったら、ちゃんとリハビリの専門家も紹介してもらうのが得策かなと思います。
アスレティックトレーナーやPTなど、スポーツのリハビリを得意とする専門家は意外といます(我々を活用してください!笑)
いつからスポーツに復帰したら良いのか、できるのか
選手にとって一番気になるところだと思うのですが、競技復帰に向けたリハビリ・リコンディショニングはそれだけで何個もの記事がかけてしまうので、今回は簡潔に。
現状として、特にユース以下のカテゴリーは専門家が充実していないところがほとんどではないでしょうか?
なんとなく痛くなくなったから復帰して、そのまま運良く再受傷せずに練習を重ねる中で、筋力やフィットネスレベルが気がつかないうちに怪我前に戻っていた、というケースがほとんどだと思います。
本来は、きちんとしたリハビリ・リコンディショニングを通してやるべきことです。
競技レベルがそんなに高くない場合には身体的な負荷もそれほど高くないので、このような"なんとなく"の復帰でも良いと思います。
ただ、競技レベルが上がるほど、負荷は高くなるので、しっかりとしたリコンディショニングがなされてなければ再受傷することも往々にしてあります。最悪のケース、患部以外のところを怪我したり。
だからこそ、段階的・包括的リハビリ・リコンディショニングが大切でなのです。
なので、患部の痛みが取れて動けるようになったら、柔軟性や筋持久力、プライオメトリックスや基本的なランニング動作など、段階的にステップを踏んでそれぞれの項目ができるかどうかを確認していきます。
一つ一つの「チェックボックス」を確認していき、徐々に本格的なスポーツの練習に復帰していく、というのが最も安全かつ、理想的な段階的リコンディショニングになります。
リハビリの速度を調整するタイミング
特にリハビリの初期段階(急性炎症期)では、リハビリの段階を踏むスピードには注意が必要です。
やりすぎずかつ休みすぎず、適度な負荷を患部にかけていくことが、より早くかつ安全な競技復帰に繋がります。
専門家がいればここのところのコントロールは心配要りませんが、まだまだ専門家につきっきりで見てもらえる人の方が少ないと思うので、ある程度自分でも知っておかなければいけないかもしれません。
まず一番に気をつけるべきは痛みです(もうわかったよ。。。と思って欲しい。笑)
リハビリをして患部を動かした後、痛みが極端に酷くなる場合にはやりすぎの可能性があります
このような場合にはリハビリのボリュームや強度を調整する必要があります。
もう一つ指標になるのは患部の腫れです。これは足首の捻挫など関節系の怪我に対して有効な指標になります。一般的に言われる「水がたまる」という状態でしょうか ?
どういうことかというと、
「リハビリ後に患部があまりにも腫れ上がる場合には、負荷をかけすぎなので、少しスローダウンしましょう」
ということです。
一つ注意書きとして。早い段階、特に急性炎症期に患部を動かしていく場合、多かれ少なかれ腫れはでます。
気をつけるべきは、腫れが元々のものを通り越して悪化していないかということです。
さらに痛みの指標も付け加えることで、より正確に患部の状態を把握しながらリハビリを進めることが可能です。
ちなみに、筋肉系の怪我の場合は腫れではなく張りを指標にするのが良いと思います。
この押したり引いたりするような匙加減は、アスレティックトレーナー でもある程度経験を積んでいかないと身についていきません。
なので、怪我をした時はまず、アスレティックトレーナー やスポーツに精通した理学療法士・その他競技復帰に向けたリハビリができる治療家を探すことが大前提だと思います。
とはいえ、そういった専門家になかなかアクセスできない方もいると思うので、私もこのようにブログで発信して行けたらと思っています。
まとめ
痛みと腫れの様子をみながら、徐々にアイシングなどのRICEをやめて、患部を動かしていく。
スポーツ復帰は一つ一つの項目をチェックするように確かめていきながら段階的に。
痛み腫れ(筋肉系は張り)がひどくなった場合はリハビリをスローダウンする。
今回は珍しく参考文献なしで、あまり専門知識がない方でもわかるように書いてみました。
参考文献を付けないとなんとなく罪悪感を感じるのですが、Practice Base Evidence(臨床実践に基づく根拠)と呼ばれるように、現場で働いて得た経験や感覚もEvidence Based Practice(科学的根拠に基づく臨床実践)と同じくらい大切です(と自分に言い聞かせてチャレンジしていきます)。
これを読んでくれた人が
「とにかく安静にしてれば良いわけではなく、身体と相談しながら適度に負荷をかけていくことがベターなやり方なのだ」
ということを理解してくれれば幸いです。
Akira
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