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執筆者の写真Akira

スポーツ活動中の突然死について、アスレティックトレーナー として考えること。



前回の記事ではスポーツ選手の命を守るために必要不可欠なEmergency Action Planについて、少し掘り下げて話をしました。順番が逆だったような気もしますが、今回は「スポーツ選手の命を守る」ことに関連して、スポーツ活動中に起こりうる「突然死」について話をしたいと思います。


スポーツにおける突然死

National Athletic Trainers' Association (NATA)のポジションステイトメント(Casa et al., 2012)によると、スポーツにおける突然死の主な原因には以下の10項目が挙げられます。

  1. 喘息 (Asthma)

  2. 脳損傷(Catastrophic Brain Injuries)

  3. 頸椎損傷 (Cervical Spine Injuries)

  4. 糖尿病 (Diabetes)

  5. 労作性熱中症 (Exertional Heat Strokes)

  6. 労作性低ナトリウム症 (Exertional Hyponatreamia)

  7. かま状赤血球症 (Exertional Sickling)

  8. ヘッドダウン・コンタクト (Head-down contact)

  9. 落雷 (Lightening)

  10. 突然の心肺停止 (Sudden Cardiac Arrest)

アスレティックトレーナー の仕事は多岐に渡りますが、スポーツ選手の命を守ることが最も大切な責務であり、もしもの事態に常に備えておくことが、マニュアルセラピーやリハビリなどよりも最初にくるべきものだと個人的には考えています。


いざ不測の事態が起こったときのために、Emergency Action Planをしっかりと作成し、スタッフ間で共有することの大切さは前回の記事でもまとめましたし、NATAのポジションステイトメントでも強調されています。


これら10項目の詳細については今後別の記事で少しずつ解説して行けたらと思っています。


日本におけるスポーツ中の突然死

日本では学校における部活動が非常に盛んですが、2005年から2016年の間に突然死 (Sudden Death) が198件発生しており、その中でアスレティックトレーナー のように、緊急時に適切な処置を施せるように教育を受けた医療関係者 (Medical Personnel)がいたケースはわずか3件だったそうです (Hosokawa et al., 2020)。


例え適切な処置を施せる体制が整っていたとしても防げない事故もあったかもしれませんが、アスレティックトレーナーとしては「アスレティックトレーナー がその現場にいたら。。。」と考えてしまいます。


しかしながら、前回の記事でも触れた通り、各学校やスポーツクラブチームにアスレティックトレーナー を設置する、というのは資金的に非常に難しいのが現状です。


ある程度のお金が回るプロスポーツでも厳しい現状があるので、それが学校の部活動レベルに浸透するのは、少なくとも近い将来では困難だと、個人的には思っています。


NATAのポジションステイトメント では、先にあげた突然死の原因について

Saving the life of a young athlete should not be a coach's responsibility or liability.
(若いアスリートの命を守ることがコーチ/指導者の責任であるべきではない)

と述べていますが、アスレティックトレーナーをはじめとする、スポーツにおける緊急時に適切に対応できるようにトレーニングされた専門家がまだ浸透していない日本の状況下では、現場に居合わせることが最も多いと考えられるスポーツ指導者・コーチの教育は必須です。


前回の記事の内容の繰り返しになりますが、この現状に置いてスポーツ指導者・コーチを教育するというのはアスレティックトレーナー の大きな役割になると考えています。


スポーツにおける突然死を防ぐために行われている取り組み

スポーツ庁の「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」では、ガイドライン内に「安全確保のための取組に関する参考資料掲載ウェブサイト」を載せています。ウェブサイトの一つには日本スポーツ振興協会が作成した「突然死に関する事故防止必携」が含まれており、部活動指導者が突然死防止について学ぶことができるように資料がまとめられています。


さらにスポーツ庁ウェブサイトでは、「運動部活動用指導手引」として各スポーツ競技団体が出している指導者用手引きを記載しており、それぞれの団体が手引きの中で突然死を防ぐための安全管理についてガイドライン等を示しています。


個人的には、全日本柔道連盟の手引きはよくできているなという印象でした。事故を防ぐためのポイントや、緊急体制の確立について具体的な説明がされており、流石に事故の多い競技だけにその辺りもしっかりと教育を行おうとしているように見受けられます(上から目線。。。誰やねん。笑)。


他の競技の手引きも安全管理についての言及はありますが、あまり具体的な情報が載っていないものも多い印象です。


ちなみに、日本サッカー協会は「JFA+PUSH」というコースを大阪ライフサポート協会と提携して行っているようで、その中では心肺蘇生やAEDの使用から、熱中症や脳震盪などについて学べるコンテンツを提供しているようです。


こういった各競技団体の取り組みはキーになると思いますし、その中でスポーツにおける安全管理のエキスパートであるアスレティックトレーナー が、もっともっと絡んでいけると良いのではないかと思います。


スポーツ指導者・コーチに対する教育の限界

ここまで、スポーツ指導者・コーチのスポーツ中に起こる「突然死」への教育の大切さについて触れましたが、NATAのポジションステイトメントでも言われているように、選手の命を守る全責任を現場にいる彼らに求めるのには限界がありますし、その責任はあまりにも大きいものです


冒頭であげたように、スポーツ における突然死の原因は多岐に渡りますし、その全てをスポーツ医学の専門家でない指導者たちに教え込もうとしても無理が生じます。コーチとしてだけで完全に生計を立てている人ならまだしも、部活動の指導者は教員であるケースも多く、彼らには本業である担当教科や生徒指導などのメイン業務があります。


以上を踏まえると、やはりスポーツ現場において、スポーツ医学に精通していて緊急時の対応ができる専門家がいた方が良いのは言うまでもありません。その専門家は外でもないアスレティックトレーナー です。


それを実現することが本当に可能なのか。アスレティックトレーナーの母国であるアメリカとは異なり、スポーツになかなかお金が回って来ない状況で、どうやって我々の専門性を世間に広め、グラスルーツまで行き渡らせていくか。アスレティックトレーニング業界全体で考えていかなければなりません。


Akira


Reference


Casa, D. J., Guskiewicz, K. M., Anderson, S. A., Courson, R. W., Heck, J. F., Jimenez, C. C., McDermott, B. P., Miller, M. G., Stearns, R. L., Swartz, E. E., & Walsh, K. M. (2012). National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Preventing Sudden Death in Sports. Journal of Athletic Training, 47(1), 96–118.

Hosokawa, Y., Stearns, R.L., Murata, Y., Yamanaka, M., Casa, D.J. (2020, June 17-December 31). Epidemiology Of Sudden Death In Organized School Sports In Japan. [Conference ePoster abstract]. American College of Sports Medicine 2020 Virtual Experience. Retrieved June 18, 2020, from https://virtualmeeting.ctimeetingtech.com/acsm2020/attendee/eposter/poster/1251


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