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  • 執筆者の写真Akira

アスレティックトレーナー の為のスポーツ脳震盪評価: オフフィールド編

更新日:2020年7月21日



前回はオンフィールドにおけるスポーツ脳震盪の評価についてまとめましたが今回はオフフィールド評価についてです。


オンフィールド評価、特に試合中は様々なプレッシャーがある為、手際良く且的確に評価を行う為には沢山の訓練が必要になります。


その点、オフフィールド評価はそのプレッシャーはありませんし、実際にSCAT 5の用紙に沿って行えば良いのでそれほど難しいものではありません。


オフフィールドでの評価


SCAT 5に置けるオフフィールド評価の項目は以下の通りです。

1. 見当識 テスト(Orientation)

「今日は何月何日か」、「今何時か」などが質問内容に含まれますが、選手の意識がはっきりしているか、正常な判断が出来ているかを確かめるテストです。

2. 即時記憶 テスト(Immediate Memory)

5個、もしくは10個も簡単な単語を口頭で選手に伝え、その選手が何個復唱できるかを確かめるテスト。見当識と同じく、選手の正常な認知機能をテスト(Cognitive Screening) するものになります。

3. 逆さま数字テスト (Digital Backward)

しっくりくる日本語訳が出来ず申し訳ないのですが、このテストでは選手にに3桁から6桁までの数字を記憶させ、それらの数字を反対から復唱させるテストです。例えば、「1、5、3」とアスレティックトレーナー が言ったら、選手は「3、5、1」と答える、といった具合です。選手の集中力を評価するテストです。

4. 逆さま月テスト (Months in Reverse Order)

3の逆さま数字テストと似たようなもので、一年の中の"月”を12月から反対に「December, November, October...」といった具合に読み上げていくテストです。


英語だとそれぞれの月に該当する単語になりますが、日本語にすると数字になるのでテストの信頼性や有効性に多少の影響はあるかもしれません。


3の逆さま数字テスト同様、選手の集中力をテストする目的で実施されます。個人的な経験ですが、スポーツ脳震盪の有無に関わらず、かなりの確率でこのテストに苦しむアメリカ人選手を見てきています。


私としては「おいおい、日本人の俺でも出来るんだから、しっかりしてくれよ。。。」と思うのですが、この辺は単純にIQの問題なのでしょうか。。。(No offense...)

5. 神経系評価 (Neurological Screening)

SCAT 5上のStep 4に当たるこの項目では神経系に関わる5つのチェックリストがあり「首を受動的に動かした時に全可動域で痛みなく動くか」や「両足を前後に交差しながら直線を歩くことができるか (Tamdem Walk)」などをテストします。

6. バランステスト(Modified Balance Error Scoring System)

同じくSCAT 5のStep 4に含まれるBESSと呼ばれるバランステストを簡略化したもので、両足立ちや片足立ちでのバランス機能をチェックするものです。


実際には目を開けた状態のテストが基本となっていますが、個人的には目を閉させた状態でも同様にテストを実施しています。最終的にエラーの数を加点しスコアを記入しますが、点数が高いほど悪い結果になります。

7. 遅延記憶テスト (Delayed Recall)

SCAT 5最後のテストが遅延記憶テストです。これは2で挙げた即時記憶テストの単語をいくつ思い出せるかのテストです。思い出すことが出来た単語の数がその点数になります。

最終的にこれらのテストの合計点を足したものをスポーツ脳震盪受傷前に行ったSCAT 5の点数と比較してその可能性を評価します。


一般的には、その競技のシーズンが始まる前に身体測定・検査の一環としてこのSCAT 5のベースラインテストを完了させておきます。そうすることで、受傷後のテストのスコアと比べて著しく点数が違う場合はスポーツ脳震盪の疑いドクターに診断を仰ぐことができます。


因みに、McCrory et al. (2017)のConsensus Statement on Concussionでは、以下の項目が一つ以上見られる場合はスポーツ脳震盪の疑いがあるとしています。日本語に訳すとどうしても不自然さが出る用語もあるので、原文を読むことをお勧めします。

  • 症状:頭痛などの身体症状、「霧の中にいるような感じ」などの認知症状、「感情の不安定さ」などの情動症状

  • 身体的兆候:意識喪失、貧血、神経的異常など

  • バランス異常:歩行に難があるなど

  • 行動異常:普段よりイライラしているなど

  • 認知異常:反応が遅いなど

  • 睡眠及び覚醒異常:眠気など


このような症状や兆候が一つでも見られる場合はスポーツ脳震盪の可能性があるので、選手を交代させたり、練習参加を中断させたりする対応が必要です。


まとめ


SCAT 5に記載されている通り、このテストは単独でスポーツ脳震盪を評価するツールではありませんのでその点は注意が必要です。これはConsensus Statement on Concussionの中でも強調されています。


オンフィールドとオフフィールドを合わせた実際の評価の流れの例は以下の通りです。

  1. アスレティックトレーナー もしくはチームドクターによるオンフィールド評価

  2. オフフィールド(アスレティックトレーニングルームなど)でのSCAT 5を用いた評価

  3. ドクターの病院やクリニックでの検診、検査

  4. スポーツ脳震盪の診断

チームや団体によってこの流れは変わってくるので、一例として参考にして頂ければと思います。


二回に渡ってSCAT 5に基づいてのアスレティックトレーナー によるスポーツ脳震盪の評価についてお伝えさせて頂きましたが、アスレティックトレーナー の主な役割はSCAT 5を用いた上で選手の状態を把握して、実際の診断はドクターに任せることです。


私の経験では、ドクターによってはアスレティックトレーナー の評価・判断に任せて、スポーツ脳震盪としてリハビリをスタートさせるケースがありました。


ただ、日本ではアスレティックトレーナー は任意の資格であって医療資格ではありません。、最初の評価をしっかりした上で、選手をドクターに送るのが基本になるのでは無いかと思います。


脳震盪から選手を守る」の記事に、世界的にも有名なスポーツ整形外科のAspetarが出しているSCAT 5の解説動画を載せていますので是非参考にしてみてください。

Akira

Reference

Echemendia, R. J., Meeuwisse, W., McCrory, P., Davis, G. A., Putukian, M., Leddy, J., … Herring, S. (2017). The Sport Concussion Assessment Tool 5th Edition (SCAT5): Background and rationale. British Journal of Sports Medicine, 51(11), 848–850. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097506


McCrory, P., Meeuwisse, W., Dvořák, J., Aubry, M., Bailes, J., Broglio, S., Cantu, R. C., Cassidy, D., Echemendia, R. J., Castellani, R. J., Davis, G. A., Ellenbogen, R., Emery, C., Engebretsen, L., Feddermann-Demont, N., Giza, C. C., Guskiewicz, K. M., Herring, S., Iverson, G. L., … Vos, P. E. (2017). Consensus statement on concussion in sport-the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. British Journal of Sports Medicine, 51(11), 838–847. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097699

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