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  • 執筆者の写真Akira

脳震盪から選手を守る



スポーツ、特にコンタクトスポーツに置いて何かと話題に挙げられる脳震盪。2015年には「Concussion」というウィル・スミス主役の映画が公開されて、スポーツ界はもちろんアスレティックトレーニング業界においても非常に話題になりました。


本記事では脳震盪とはどのようなものなのかを、2017年に発表されたConsensus Statment on Concussion (McCrory et al., 2017)を中心に話をしていきたいと思います。


脳震盪の専門的な呼び名



脳震盪はしばしば英語でConcussionと呼ばれますが、近年ではSports Related Concussion (以下スポーツ脳震盪と呼ぶことにします)という呼び方に変わってきています。


2016年にベルリンで行われた脳震盪サミット後に出されたConsensus Statementでは、concussionをスポーツ脳震盪と呼ぶことを前提に、


Sport related concussion is a traumatic brain injury induced by biomechanical forces.

(McCrory et al., 2017)


と定義されています。要するに、スポーツ中の物理的な力によって引き起こされる脳の怪我がスポーツ脳震盪ですよ、ということです(そのまんま。笑)。


物理的な力、と聞くと直接的なコンタクトによってしかスポーツ脳震盪は起こらないようにも聞こえてしまいますが、いわゆるむち打ちのような、直接的なコンタクトが頭部になくても、急に首を捻ってしまったりした時(例えばサッカーの試合中に空中で競り合った時に胴体へ強いコンタクトを受けた時など)の間接的な頭の動きによっても起こります


スポーツ脳震盪の主な兆候と症状


選手がスポーツ脳震盪を受けた際に、どのような兆候や症状が見られるかをしっかりと理解しておくことはアスレティックトレーナー にとってはもちろん、スポーツ活動の中となる選手自身や指導者にとっても非常に大切なものです。


さらに言うと、アスレティックトレーナー の選手や指導者に対する教育が、スポーツ脳震盪の早期発見と診断、そして治療開始に大きく関わってきます。スポーツ脳震盪時に見られる主な兆候と症状は以下の通りです (Echemendia et al., 2017)。

頭痛 (Headache)

頭部圧迫感 (Pressure in the head)

頚部痛 (Neck Pain)

吐き気/嘔吐 (Nausea/Vomiting)

めまい (Dizziness)

ものが霞んで見える (Blurred Vision)

バランスが悪い (Balance Problems)

光に敏感 (Sensitivity to light)

音に敏感 (Sensitivity to noise)

素早く動けない感じ(Feeling slowed down)

霧の中にいる感じ (Feeling like in a fog)

気分が良くない (Don’t feel right)

集中力がない (Difficulty concentrating)

思い出せない (Difficulty remembering)

疲労感/活力が低い (Fatigue or low energy)

混乱している (Confusion)

眠くなりやすい (Drowsiness)

寝つきが悪い (Trouble falling asleep)

いつもより感情的 (More emotional)

怒りやすい (Irritability)

悲しい (Sadness)

神経質、不安感がある (Nervous or anxious)


個人的な話をすると、私は小学二年生から大学一年の終わりまでサッカーをやっていましたが、サッカーのプレー中にスポーツ脳震盪という怪我が起こりうると言うことは全く知りませんでした


振り返ってみるとスポーツ脳震盪に関する体験が二つほどあります。一つは中学時代。所属チームのエースが、試合の後に「自分が試合に出ていたことを忘れていた」というエピソード。


試合の中で彼は頭に衝突を受けていたのですが、その当時の私はスポーツ脳震盪のことなど知る由もありません。今思い返してみると、その選手はスポーツ脳震盪を起こしていたと考えられます。


もう一つは自分自身の体験です。大学一年生のある時試合に出ていたのですが、「ふと気付いたら自分が試合の中にいた」という体験をしたことがあります。その時の感覚としては、夢から覚めたら自分がサッカーの試合の中にいたという感じで、試合前のことや自分がどのタイミングで試合に交代で入ったかなど全く覚えていませんでした。


試合後に先輩に話を聞くと「お前、コーナーキックで競り合った時にかなり頭強く打って、少しの間起き上がれてなかったよ。」と言われました。流石にスポーツ医学を勉強する大学生だったのでスポーツ脳震盪に関する知識は多少なりともあり、また頭痛もあったことから次の日に大学の病院で検査を受けました。


思い返すと記憶をチェックしたり、スポーツ脳震盪に関する検査されていたのだと今わかりますが、ドクターには「健忘症」と言われただけでそのまま家に返されました。もちろん大学のサッカー部にトレーナーもいなかったですし、記憶ではドクターに大したアドバイスも受けることもありませんでした。


こういった体験からも、選手自身が脳震盪について少しでも教育を受けることが大事だと言えます。選手自身の理解があることで、仮にアスレティックトレーナー がいなかったとしても「脳震盪っぽいから一応病院いっておこうかな」と選手が自主的に病院にかかったり、周りのチームメイトやコーチから「お前、頭強くうってたから練習は休んで病院行っとけよ」となるケースも多いのではないかと思います。


因みに私の通っていた大学は、東京都内及び国内でも有名な医学部そして大学病院を持っています。その病院のドクターですら「健忘症」といってしまうほどなので、その当時(2009年)の日本のスポーツ医学がまだまだであったのではないかと思います。


今から10年も前の話ですし、それ以来かなり改善はされているはずです。


スポーツ脳震盪の評価


スポーツ現場に居合わせるアスレティックトレーナー にとって、スポーツ脳震盪の疑いをいち早く察知することは非常に重要な役割です。Consensus Statmentでも言われているようにSCAT 5の使用がスポーツ脳震盪の評価をする際のスタンダードです。


ただし、例えばサッカーなど試合の進行が止まらないスポーツの中では、SCAT 5の全てを項目を検査するということは時間的に難しいため、SCAT 5を簡潔にまとめた形での評価を行います


スポーツドクターがいる場合にはスポーツドクターが評価を行いますし、アスレティックトレーナー のみの場合はアスレティックトレーナー がそれを行います。


2020年現在、SCAT 5の日本語訳は残念ながら出ていません。ちなみにSCAT 3という一つ前のものは日本語訳が出ています。


SCAT 5と比べてそこまでの違いはないので代替的に使うものいいのではないかと思います。ただし最新のエビデンスに基づいたサービスを提供するのであれば、SCAT 5を使った方が良いと言うことは言うまでもありません。


以下、Aspetarという世界的に有名なカタールのスポーツ整形外科が出している動画を参考として載せています。Youtubeの設定で英語の字幕を出すことも可能です。


(Credit to Aspetar)


SCAT 5は医療従事者(日本だと残念ながらアスレティックトレーナー はこれに当てはまりません。)のための評価ツールとして作られたもので、指導者向けには作られていません。そこでSCAT 5と同時に考案されたのがConcussion Recognition Tool 5 (CRT 5) (Echemendia et al., 2017)です。


注意書きにあるようにスポーツ脳震盪の診断をすることは出来ませんが、スポーツ脳震盪に見られる特徴的な兆候や症状が書かれていて、どのような場合に救急車を呼ばなければならないかが書かれてます。


アスレティックトレーナー のいないスポーツ現場では非常に有用なツールだと思いますし、全てのスポーツ指導者が救急法に加えて、備えておくべき知識だと思います。PDFでスマートフォンに保存しておけば、いざと言う時にすぐに参考にすることが出来て、とても便利です。


因みに私はオンライン版のSCAT5をスマホのブックマークに保存していますが、これは紙のSCAT 5なしで評価をして結果をPDFに落とせるので非常に便利です。残念ながら日本語バージョンは出ていないのですが、非常に便利なものなので紹介しておきます。


スポーツ脳震盪に関しては沢山のディスカッションポイントがあるので今回はその導入篇として、特徴的な兆候や症状、そしてその評価方法について簡潔に紹介をさせて頂きました。


次回は二回に渡って、SCAT 5 の内容について解説していきます。


Akira


Reference


Echemendia, R. J., Meeuwisse, W., McCrory, P., Davis, G. A., Putukian, M., Leddy, J., … Herring, S. (2017). The Sport Concussion Assessment Tool 5th Edition (SCAT5): Background and rationale. British Journal of Sports Medicine, 51(11), 848–850. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097506


Echemendia, R. J., Meeuwisse, W., McCrory, P., Davis, G. A., Putukian, M., Leddy, J., … Herring, S. (2017). The Concussion Recognition Tool 5th Edition (CRT5): Background and rationale. British Journal of Sports Medicine, 51(11), 870–871. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097508


McCrory, P., Meeuwisse, W., Dvořák, J., Aubry, M., Bailes, J., Broglio, S., … Vos, P. E. (2017). Consensus statement on concussion in sport-the 5(th) international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. British Journal of Sports Medicine, 51(11), 838–847. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097699

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