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執筆者の写真Akira

突然心停止(SCA)における"早期認識"の大切さ

更新日:2021年6月19日


(Credit to AP)


前回の記事に書いたエリクセンの一件があってから、突然心停止(SCA; Sudden Cardiac Arrest)について色々と文献を読んでいます。


しばらくSports Medicineの仕事からは離れているので、結構忘れていることも多いなと感じています。


こう言ったEmergency Care系は、アスレティックトレーナー として働いていたとしても出会す機会はそうないので、特に忘れやすい分野だと個人的には感じます。


今回、エリクセンが助かったのはMedical Staffや大会側/スタジアム側のドクターや救急隊員による迅速な対応によるものだと言われていますが、突然心停止が起きた際に、CPRとAEDを開始する時間が遅れるほどその選手の生存率は低下していく、ということは広く知られていることだと思います。


よって、いかに突然心停止の可能性を素早く認識して、CPRを始めるかがキーになってくるわけですが、それに関連する興味深い文献があったのでその内容をシェアしたいと思います。


Early Recognition (早期認識)の大切さ


(Credit to UNPLASH.COM)


Panhuyzen-Goedkoop et al (2018)は、過去に競技中に発生した突然心停止のケースについて、それらの映像と画像を使って各ケースに共通してみられる特徴的な身体動作(倒れ方、その他目視できる特徴)について調査しています。


その調査によると、突然心停止に関連する身体動作の特徴として、意識を失って膝から崩れ落ちてそのまま地面に倒れたり、前方方向に顔が下になるように倒れたりが観察されたとのこと。


卒倒/転倒の仕方についてはケースによってばらつきがあり、必ずしも突然心停止特有の倒れ方があるということではないようです(普通に考えたらそりゃそうなんですが)。


このように、選手が接触のないところでいきなり倒れたとしてすぐに「突然心停止だ!」と反応して、すぐにCPR/AEDの処置ができるでしょうか?


突然心停止に特徴的な身体動作を知っておくだけでも、いざその場面に出会したときに「もしかして心停止か」と考えを巡らせることができるかもしれません。


そういった点からも、今回のケースから学ぶことは非常に多く、意味のあることだと思います。


(Credict to Verywell Health)


Siebert & Drezner (2018)は、突然心停止に伴う転倒について、転倒後にてんかん(Seizure)や間代性筋けいれん(Myoclonic/Myoclonus)に似た身体の動きが見られることがあることから、突然心停止とこれらを誤認識してCPRやAEDの処置が遅らせられるべきではないと警告しています。


加えて、突然心停止への適切な対処が早急に行われるよう、突然の卒倒の原因が明らかに心臓以外(Non-cardiac Cause)だと判断できる場合を除いて、すぐに対処を開始するべきだともしています。


実際にその場に居合わせると、色々と考えてしまって処置が後手に回るということは、切迫した状況であれば起こりうることです。


いざという事態で後手に回らないよう、あらかじめPPE(Pre-Participation Exam)で突然心停止のリスクのある選手をピックアップした上で、その他突然意識を失って倒れるリスクのある疾患を抱えている選手についても認識しておくことも大切です。


(Credit to Sports Values)


エリクセンのケースでもありましたが、tongue swallowing(舌根沈下)が起きないようにする行為は不必要であり、適切な対処の開始を遅らせる原因にもなると、Siebert & Drezner (2018)は付け加えています。


2020年にアップデートされたAmerican Heart AssociationのBasic Life Supportに関するガイドラインでは、たとえ心停止していない患者に胸骨圧迫をしたとしても、それが患者に与えるネガティブなリスクは少なく、心停止を疑った場合には直ちにCPRを開始すべきだと書かれています。


このことからも優先すべきはCirculation (胸骨圧迫)でありAirway(気道確保)ではないということが分かりますし、そもそも正しい対処法ではない舌根沈下を防ごうとする行為自体は不要、ということになります(今回の件に関しては、その場にいた選手たちはエリクセンを救うために必死に動いた訳で、それを咎めようという意図は一切ありません)。


また、Panhuyzen-Goedkoop et al (2018)は、転倒時のパターンはケースによって違いがあった一方、全てのケースに共通した特徴として、目が開いたまま(Eyes Opnened)で瞳孔固定 (Fixed Pupile)が見られたと報告しています。


これはエリクセンのケースでも見られましたし、突然心停止を見極めるサインとしては有効なものになりそうです。


通常のCPRであればここまでの観察をすることなく胸骨圧迫を最優先に行うわけですが、競技に関わるメディカルスタッフであればこの辺りの特徴は抑えていても良いのではないかと個人的には感じました。


まとめ


今回の一件は個人的にEye-openingな出来事でしたし、スター選手だっただけに世界に与えたショックは尚更大きかったと思います。


救急対応は常日頃からイメージ、練習していないと身体が動かないものですし、ガイドラインも常にアップデートされます。


日頃の鍛錬が大事ということです。


とにかく、選手が無事でよかったです。


Akira


Reference


CPR & ECC Guidelines. (n.d.). Cpr.Heart.Org. Retrieved June 16, 2021, from https://cpr.heart.org/en/resuscitation-science/cpr-and-ecc-guidelines


Panhuyzen-Goedkoop, N. M., Wellens, H. J., & Piek, J. J. (2018). Early recognition of sudden cardiac arrest in athletes during sports activity. Netherlands Heart Journal: Monthly Journal of the Netherlands Society of Cardiology and the Netherlands Heart Foundation, 26(1), 21–25. https://doi.org/10.1007/s12471-017-1061-5

Siebert, D. M., & Drezner, J. A. (2018). Sudden cardiac arrest on the field of play: Turning tragedy into a survivable event. Netherlands Heart Journal: Monthly Journal of the Netherlands Society of Cardiology and the Netherlands Heart Foundation, 26(3), 115–119. https://doi.org/10.1007/s12471-018-1084-6


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