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  • 執筆者の写真Akira

スポーツ現場に関わる人が知っておきたい、Emergency Action Planとその作り方



皆さんはEmergency Action Planという言葉を聞いたことはあるでしょうか。これはEAPと略され、アスレティックトレーナーとしては必ず知っておかなければならない用語で、どんな現場でも必ず用意されているものです。


アメリカでは、アスレティックトレーナー が働く場所ではほぼ100%EAPが存在します。「ほぼ」と強調したのは、私が以前働いていた現場で、私が働き始めた時にEAPは存在していなかったからです。実際にはこれは好ましいことではありません。。。


日本では学校単位での部活動が盛んですが、アスレティックトレーナー のような突然の事故に対応できる専門家がいるところはほぼ皆無です。


当然ながら、部活動の顧問、もしくは外部コーチがこの責任を問われる訳ですが、救急法の取得の義務があるかどうかもも不透明です(誰かご存知の方は是非教えて頂きたいです)。


私が以前働いていたチームの下部組織に当たるユースチームのコーチ陣は、救急法コースの受講とその資格の維持が義務付けられていました。常勤のアスレティックトレーナー がいたにもかかわらずです。


指導者が最低限の教育を受け、知識を持ち合わせる。これは日本の部活動単位でもすぐに実施出来ることではないでしょうか。


例えば、日本サッカー協会(JFA)が発行する指導者資格のコースには「メディカル」という項目が見られます。


この講義の内容がどれほどものか不明ですが、例えば協会主導で指導者に対して救急法資格の取得を義務付けてしまうことが一番手っ取り早い気がします(実際に義務化されているケースもあると思いますが)。これはどのスポーツに対しても言えることです。


個人的には、アメリカのようにアスレティックトレーナー の雇用を増やすよりも、アスレティックトレーナー が教育する立場となり、救急法やEAPなどの基本的な知識を指導者達に普及させていく、ということの方が今すぐにでも日本のスポーツ界の安全管理面を改善する一助になるのではないかと考えています。


本記事ではアスレティックトレーナーにとってはもちろん、コーチそして部活動の顧問の先生にも役に立つ、スポーツ現場における危機管理をまとめたEAPについて話していきます。


EAPの目的

EAPの最大の目的は万が一の大きな怪我、特に命に関わる怪我がスポーツの最中に起きた際に適切かつ迅速に対応するためです


EAPをあらかじめ部活やチームのスタッフ間で共有しておくことで、緊急時に誰がどんな役割を果たすべきかをあらかじめ明確にすることができます。


National Athletic Trainers' Organization (NATA)のポジションステイトメント (Andersen, Courson, Kleiner, & McLoda, 2002) では次の二項目についてEAPの必要性が述べられています。


1. 専門的必要性 (Professional need)

例えば、アメリカの大学スポーツはNCAA(全米大学体育協会)という団体によってEAPの作成が義務付けられています。ほとんどの大学のスポーツ医学局 (Sports Medicine Deparment)がそのホームページにコピーを載せて誰でもアクセス可能にしています。


日本のケースで例えて言うのであれば、日本サッカー協会がそれぞれの地域クラブにEAPの提出を義務付ける、ということも出来るかもしれません。


フォーマットを作ってあげて、情報を入力さえすれば完成するようにデザインすれば、そこまで手のかかることではないように思えます。


実際にはこう行った規定は設けられていないとは思いますが、各競技団体がこのような規定を儲けることはEAP普及に大きな影響を与えるかもしれません。もしこういった規定を設けている日本のスポーツ団体をご存知であれば是非教えて頂きたいです。


ちなみに日本サッカー協会は上記のような規定は設けていないようですが、スポーツ救命ライセンス講習会という独自のライセンスを交付する活動を開催したり、救急方について詳しく情報を載せたりしています。 非常に素晴らしい取り組みです。


ちなみに全国日本高等学校体育連盟のホームページを確認しましたがEAPや安全管理に関する情報などは一切乗っていませんでした。スポーツ庁は運動部活動の在り方に関する総合的なガイドラインを出していますが、その中でも安全管理に関する内容は数行に止まっており、且つ具体的な対策などは特別記載されていません


日本のスポーツと部活動は切っても切れない関係にあると思うので、このような場所においてアスレティックトレーナー が切り込んでいける余地はかなりあるのではないかと、個人的には感じています。


因みにスポーツセーフティージャパンという、アメリカでアスレティックトレーナー の資格(BOC-ATC)を取った方々を中心とした団体が、EAP普及に尽力しているようです。


2. 法的必要性 (Legal need)

法的必要性というものもポジションステイトメント上でEAP作成の目的の一つとして挙げられています。EAPは仮に大きな事故が起きて、怪我をした本人や家族アスレティックトレーナー に訴えを起こした時に救急時に備える責務を果たしていたという証明になり、自身を守る役割を果たします。


例えアスレティックトレーナー のいないところでも、EAPを作っておくことで指導者が選手の怪我の責任を法的に問われる可能性を避けることも出来るかもしれません。これ以上踏み込んでしまうと法律の話になり、私の専門外になってしまうので、これ以上の言及は避けたいと思います。


EAPの構成

次にEAPの内容についてですが、NATAのポジションステイトメントでは以下のように項目が挙げられています。


1. 人員 (Personnel)

緊急時における対応者の名前が含まれます。多くの場合はアスレティックトレーナーやチームドクターが含まれ、アスレティックトレーニングを学ぶ学生が含まれることもあります。


アスレティックトレーナー がいないスポーツ団体、例えば地域のサッカー少年団であればチームの活動に常に帯同するコーチなどが含まれるでしょう。


2. 用具 (Equipment)

緊急時の対応に備えて準備されている用具もEAPの中に含まれます。主なものとしてはメディカルバッグ、AED、松葉杖、副木(vaccum splintやSAM splint)などがあります。私が以前Graduate Assistantとして働いた大学ではした酸素ボンベもリストの中に含まれていました。


アスレティックトレーナーの方であれば一式揃えてしまっても良いかもしれません。指導者の方、例えば部活動の顧問の方であればAEDは学校に常設されていると思うので、それだけでも十分かなと思います。この場合、AEDの設置場所を顧問の先生がしっかりと把握しておくことが重要です。


3. 連絡手段 (Communication)

緊急時に使われる電話番号などを記載します。例えばアスレティックトレーナー の携帯番号であったり、アスレティックトレーナーのオフィスにある固定電話の番号などもこれに当たります。アスレティックトレーナーがいない場合は、コーチや顧問の先生の電話番号を記載しても良いかもしれません。


因みに私が作成したEAP (ブログ最後尾参照)ではCommunicationの部分は試合中にアスレティックトレーナー が使うハンドシグナルについて記載しています。拳を挙げたら「チームドクターがフィールド内に必要」、両腕をクロスしてバツのマークを作ったら「フィールド内に救急隊員および救急車が必要」、と言った具合です。


これは完全に競技スポーツで働くアスレティックトレーナー用なので、専門家の方以外は参考にならないと思いますが、大きな大会でアスレティックトレーナー やスポーツドクターが複数いる状況下では、緊急時のコミュニケーションの取り方を予め確認しておくことは必須です。


プロスポーツやカレッジフートボールなどの大規模な試合では無線でコミュニケーションを取ることも多いですし、例えばサッカーの試合であれば、無線を使ってフィールド内からベンチのスタッフや会場内に待機している救急隊員とコミュニケーションを取ったりします。


4. 搬送手段 (Transportation)

救急車の有無、スポーツイベントにおける救急車の待機場所や到着場所についての記載も重要です。例えば、入り組んだ場所にある練習場などではどの入り口から救急車を誘導するかをあらかじめ明確にしておくことで、救急車を速やかにけが人の元へ送ることができ、より迅速な搬送を可能にしてくれます。


一刻を争う怪我の際などはスムーズな搬送が特に重要になってきます。アメリカではプロスポーツはもちろん大学や高校のアメフトの試合などでも救急車を試合会場に待機させておくことが多いです。


私も試合中に選手を救急車で搬送したことが何度かありますが、どのように救急車をフィールド内に呼ぶかなどの細かい事前確認を救急隊員とすることが大切で、救急隊員にEAPをシェアしておくことも必要になってきます。


5. 施設の住所・場所 (Venue Location)

普段の練習場所や試合会場の住所や地図を明確に記載する項目です。スタッフ間でシェアしておくことにより、緊急時に救急車を怪我が起こった場所にスムーズに呼ぶことができます。


普段から練習が行われる場所であれば住所も覚えて置けるかもしれませんが、遠征先などでは予め住所を調べておくと、万が一救急車が必要となった時にもスムーズな対応が出来ます。


6. 緊急搬送先 (Emergency Care Facilities)

救急外来のある病院だったり、近隣にあるアクセスの良い病院がこれらに該当します。


上記5で述べたように普段の活動場所であれば近くにあるアクセスの良い病院なども覚えて置けるかもしれませんが、例えば試合相手の選手が怪我をした時にその親御さんだったりコーチ、もしくはアスレティックトレーナーがいればアスレティックトレーナーにどの病院を使うのが良いかをすぐに伝えることが出来ます。


チームドクターがいる場合はその病院が救急外来に加えて記載されることもあります。


まとめ

以上、EAPの目的とその内容について説明させて頂きました。これらと同じく大事なのは緊急時に備えてスタッフ間で常にアップデートを行い、EAPのシミュレーションを行うことです。私もアスレティックトレーナーとして救急車を二回呼んだ経験がありますが、予めEAPを作成し普段から訓練することで自然と体が動いてくれます。以下に私が作ったEAPを載せますので是非参考にしてみてください。


アスレティックトレーナー をやっているとハンズオンの手技やリハビリなどに目が行きがちですが、我々が最優先・最重要視すべきことは選手の命を守ることです。これは基本中の基本です。


既に言及した通り、現時点では日本で全てのスポーツ現場にアスレティックトレーナー を常駐させるのは非常に難しいです。


しかしながら、スポーツ現場における「First Aid」そして「安全管理」のエキスパートであるアスレティックトレーナーが主体となり、日本のスポーツ界の安全への意識を向上させることは今すぐにでも取り組めることではないでしょうか。


Akira

 
 

Reference


Andersen, J., Courson, R. W., Kleiner, D. M., & McLoda, T. A. (2002). National Athletic Trainers’ Association Position Statement: Emergency Planning in Athletics. Journal of Athletic Training, 37(1), 99–104.

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