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  • 執筆者の写真Akira

RICE処置のアップデート/アップグレード

更新日:2020年12月5日

前回の記事ではRICEの誤った使い方による弊害について私の個人的な考えを含めて話しました。


タイトルにはアップデート・アップグレードとしていますが、スポーツ医学の世界では決して真新しい情報でもなんでもなく、RICEの概念が提唱されてから何年も議論されてきた話です。


今回の記事では、RICEのコンセプトを踏まえた上で、急性の怪我に対して私自身が実際にどの様に考え、対処しているかについてお話しします。



Rest


前回の記事でも触れましたが、過度な患部の安静や保護はむしろ怪我の回復を遅らせる原因となります。


過度な、と強調した通り、怪我の程度に応じて安静・保護の必要性とその期間は代わるのでそこは注意が必要ですし、ある意味ここの見極めが専門家としての腕の見せ所とも言えるのではないでしょうか。


RICEに代わるものとしてあるのがPOLICEと呼ばれるものです(英語は何にでも略称をつけるのが好きですね。笑)。POLOCEは以下の五項目から構成されています。


Protection

Optimal Loading

Ice

Compression

Elevation

(Bleakley et al., 2012)


(改めて参考文献のタイトルを読み返して、なかなか秀逸なネーミングだと感心してしまいました。笑)


アイシング、コンプレッション、エレベーションの部分はRICEと変わりませんが、注目したいのは"OL"の部分であるOptimal Loadingです(ちなみにRICEもProtectionの意味を加えてPRICEと呼ばれることがあります。)


Restは日本語で言うと安静・休息と訳されますが、この言葉を正直に捉えすぎると、


「とにかく痛みや腫れがなくなるまで(=急性炎症期)は固定して安静にすべき」


という極端な解釈になる危険性があります。


怪我をして整形外科などに行った時に「はい、じゃあ、とりあえず1-2週間は安静にして様子をみましょう」と言われたことのある人はとても多いはずです。


適切な知識と経験を備えた専門家であれば、RICEもPOLICEも多少のコンセプトの違いはあれど、やるべきことは大きく変わらないので問題ないかもしれません。


ただ、一般の方にはRICEの方が馴染みが深いと思うので、専門家が話をする時は注意が必要です。実際、怪我が起きた際に何となくRICEを多様するケースは、未だに少なくないと思います。


個人的には、POLICEを大学院時代に習ったのはうっすら覚えていたのですが、同期に「POLICEってあるよね」と言われて思い出しました(ありがとうKiyo。笑)。


トレーニングもそうですが、リハビリの際に鍵となるのは、如何に組織に適切な負荷をかけるかです。適切なストレスは組織の修復プロセスに必要不可欠なものだからです。


なので、痛みが強いから、腫れているから、と言って患部をガチガチに固めて全く動かさない様にするのは理想的なアプローチではありません。


ここで言う適切な負荷は、怪我の種類や個人によって違うので一概に定義は出来ませんが、個人としては、痛みが最小限かつ患部が腫れさせたり既存の腫れを悪化させないもの、を基準としています。


もちろん、急性期に負荷をかけすぎると痛みが増大したり、患部がさらには腫れ上がったりします。そう言った場合は、エクササイズを変えるなどして強度を落としたり(Regression)、リハビリの間隔を1日空けて治療やリカバリー、患部外のエクササイズのみにするなどの対応が必要です。


どのくらいの負荷がポジティブもしくはネガティブな反応を患部に起こすかは、実際に負荷をかけてみないと分かりません。これは筋力トレーニングと同じ考えだと思っています。


大学院時代に出会ったメンターがよく"Exercise is test, test is exercise"と言っていましたが、シンプルで非常に的確な言葉です。


しっかりと患部の状態や選手の状態を見極めながら進めれば、あとは適切な負荷をかけるためのエクササイズはたくさんありますし、その組み合わせは無限にあります。


患部の回復に合わせて適切な負荷を与え続けるという軸さえぶれなければ、エクササイズの形は違っても良いと思っています(最も、適切な負荷を意識したら、どんなエクササイズをやるべきかの選択肢はある程度絞られると思いますが)。


蛇足ですが、POLICEと言うものの他に、PEACE & LOVEと言うものも見つけました(ネーミング。笑)。この略称の中身は以下の通りです。


Protection

Elevation

Avoid Anti-Inflammatories

Compression

Education

&

Load

Optimism

Vascularization

Exercise

(Dubois & Esculier, 2020)


くどくなるので、詳しい説明については文献を読んで欲しいのですが、この用語の良いなと思うところは負荷、楽観、血流、エクササイズを包括するLOVEの部分です。


その理由はここまでを読んでくださっていればお分かり頂けるのではないでしょうか。この記事ではほとんど触れてませんが、メンタル部分も非常に大切です。


Ice


Restについての話が長引いてしまいましたが、次はアイシングについて。


前回の記事でも少し触れましたが、個人的にアイシングを使うタイミングは痛みが酷い場合と急性期の初期がほとんどです。


とは言え、急性期であっても痛みがそこまで強くなく、選手がアイシングの必要性を感じていなければ、怪我が起こったその直後だけ使用して、その後のリハビリではほとんど使わないということも多いです。


選手によってはリハビリをした後にアイシングをするのが習慣になっている人もいるので、その時は選手の好みをリスペクトします。ただし、痛みがない限りはアイシングは特に必要ないよ、と言う教育的な声かけを添える様にしています。


あまりに怪我が酷く痛みが強い場合に限り、10-15分程度冷やして1時間休むルーティンを1日の中で繰り返させる場合もあります。


痛みに関するアプローチとしては針(鍼灸やDry Needling)も有効の様です。


ただ、個人的には鍼灸の資格もありませんし、アメリカでもDry Needlingのコースをとったことがないのでその実践経験はありません。と言うわけでこれ以上の説明は控えておきます(寄稿してくださる方、募集します。笑)。


Compression

前回の記事で触れた通り、圧迫はほとんどのケースを除いて行いません。


四肢関節の急性の怪我に対する圧迫処置のレビューでは、その有効性は示されなかったとのこと (Borra et al., 2020)。足関節捻挫の処置に関するレビューでも"no evidence"だったとされています (Kemler et al., 2011)。


実際に現場で使っていてもあまり効果を感じられていないもの圧迫をあまり使わない理由の一つです。


その代わりに私が多用するのはMarc Proという微弱電流で筋収縮を促す機械です。この機械との出会いが、個人的に圧迫処置をあまりしなくなった大きな理由です。


使い方としては、足裏とふくらはぎにパッドを貼り、ふくらはぎの筋収縮を使って患部周辺の環流を促すという非常にシンプルなものです。


ちなみにふくらはぎは第二の心臓とも呼ばれ、下肢の環流に対して非常に大きな役割を担っています。


ここにもOptimal Loadingが怪我の回復にとって大事な理由があります。エクササイズを行って筋収縮を起こすことで患部の環流を促すのがその理由です。


Marc Proは一台7万円弱するので決して安くはないですが、腫れのケア+リカバリーにも使える優れものです(ちなみに販売員でもなんでもありません。笑)。


痛みがそこまで強くない怪我に関しては、最初にアイシングをさせた後は、選手に永遠にこの機械を自宅で使わせます。


個人的な経験だと、バンテージでコンプレッションするよりも遥かに腫れの引きが早くなります。実際に使う場面としては関節捻挫と肉離れが多いです。下肢の筋肉痛や疲労感がある際にも使えます。


最後に、これまた同僚に言われて思い出したことですが、キネシオテープも腫れを引かせるのに使えるツールです。


キネシオテープは、Marc Proの様な高価なモダリティを手に入れることが難しい場合には、とても有用なオプションになると思います。


Marc Proがある場合は、個人的にはおそらくチョイスしませんが、バンテージの使用が全く無意味かと言えば、違うと思います。


患部の肌が覆われて保護されているだけでも痛みが和らいだり (Gait Control Theory)、精神的な安心感があることもありますし、何より安価で誰でもアクセスできるので、どんな現場でも使えるツールです。


結局は何事も"It depends" (時/場合/状況による)です。ケアの目的に添った正しい選択肢を取れる柔軟な姿勢が大事だと考えています。


Elevation

前回の記事でもお話しした通りあまり使う頻度は多くありませんが、Marc Proなどの機械がない場合はやっても良いと思います(Better than nothing)。


また、酷い足関節捻挫などの場合は足を上げて寝るだけでも翌日の腫れの程度が軽減されることもあるのでやっても良いかと思います。


挙上に関して、他のプラクティショナーの考え・意見も気になるところです。


まとめ

  • 闇雲に休むのではなく、患部に対して"適切な負荷"を

  • 早期のエクササイズによる負荷が組織の修復に非常に大切


怪我に関するRICEの話から少しそれますが、トレーニングと絡めたCryotherapy全般(アイスバス、クライオサウナなど)に関する面白い記事をちょうど見つけたのでそれも合わせて読むと面白いと思います(ちなみに、この記事の中でもEMSとしてMarc Proのことが言及されています)。


ちなみにこの記事はSimplifasterというSC系のブログなのですが、こういう「リッチ」な記事を見ると本当にすごいなあと思います。いつかこれくらいのものが書ける様に、研鑽します。


Akira


Reference


Bleakley, C. M., Glasgow, P., & MacAuley, D. C. (2012). PRICE needs updating, should we call the POLICE? British Journal of Sports Medicine, 46(4), 220–221. https://doi.org/10.1136/bjsports-2011-090297

Dubois, B., & Esculier, J.-F. (2020). Soft-tissue injuries simply need PEACE and LOVE. British Journal of Sports Medicine, 54(2), 72–73. https://doi.org/10.1136/bjsports-2019-101253

Borra, V., Berry, D. C., Zideman, D., Singletary, E., & De Buck, E. (2020). Compression Wrapping for Acute Closed Extremity Joint Injuries: A Systematic Review. Journal of Athletic Training, 55(8), 789–800. https://doi.org/10.4085/1062-6050-0093.20


Kemler, E., van de Port, I., Backx, F., & van Dijk, C. N. (2011). A Systematic Review on the Treatment of Acute Ankle Sprain. Sports Medicine, 41(3), 185–197. https://doi.org/10.2165/11584370-000000000-00000

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