top of page
  • 執筆者の写真Akira

スポーツ傷害と誤ったRICE処置による弊害

更新日:2020年11月13日



スポーツをやっている人にとって、怪我は避けて通るのが難しいものです。


特に競技レベルが上がるほど、それだけ運動強度は上がり、怪我のリスクは高まります。


一般的に、怪我をした時はそれが酷ければ整形外科に行ったり、治療院に行ったりすると思うのですが、そこで「1週間は安静にしましょう」とか「できる限り圧迫したり冷やしたりしましょう」ということを言われたことがある人は多いのではないでしょうか?


これはRICE (Rest; Ice; Compression; Elevation)と呼ばれる、急性の怪我への対処法に基づいたアドバイスであり、特に競技スポーツをやる人の間ではよく知られた理論であり、現場ではよく実践されていると思います。


私も大学・大学院でアスレティックトレーニングを学ぶ中で、RICEについて習い、「怪我の急性期は3-5日くらい続くからその間はとにかくRICE!」といった形で、足首の捻挫や肉離れの怪我に対して、"教科書的に" RICEを行っていました。


しかしながら、アスレティックトレーナー としてのキャリアを通して、その考え方は少しずつ変化し、今ではRICEを使う機会は稀になっています。


以下にその理由を上げたいと思います。


Restについて

すでに上記で触れていますが、「怪我をした直後はとにかく安静に」というのはお医者さんの決まり文句です。実際に安静にすることでさらなる怪我のリスクを押さえることができますし、これ自体は間違っていないと思います。


しかしながら、患部を必要以上に固定したり、荷重を避けるなどして「休ませすぎる」と、患部の環流が停滞して、怪我の治りが促進されない状況が生まれます。


わかりやすい例として足首捻挫でしょうか。よくあるケースは1週間も2週間も包帯やサポーター、酷いケースではシーネなどで固定されて患部が全く動かせないまま、とにかく休まされること。


本来は怪我の治りをよくするための安静が、逆に怪我の治りを遅くしてしまうとしたら、皮肉なことでは無いでしょうか。


更に患部の安静期間が長ければ長いほど患部の機能はどんどん低下していきます。結果的にフルパフォーマンスへ戻るプロセスが余計に長引くことになります。


現在スポーツ医学界では、怪我をしてからも「できる限り早く、痛みのない範囲で」、受傷後早期から患部を動かすことが推奨されてきています。


前十字靭帯損傷の手術後ですら、翌日から患部を「最小限の痛みで可能な限り」動かしていきます。


この辺はまた次回の記事にて話をしたいと思います。


Iceについて

次はアイシングについて。


私自身、大学でRICEを勉強して以降、「怪我をしたらまずはアイシング!急性期は継続してアイシング!」と、教科書的にRICE処置を行っていた時期もありました。


アメリカの大学院に進んだ後も、アイシングと電気療法 (E-stim)の組み合わせを習ったり、実習先でよく見かけたので、それに習っていました。


しかしながら最近では、アイシングはよっぽど痛みが強い場合を除いて、選手にはやらせていません。全く使わないわけではないですが、その頻度はかなり減りました。


アイシングに対する私の考え方が変わる大きなきっかけとなったのは、FC Dallasというメジャーリーグサッカー (MLS)でのサマーインターンでの、偉大なメンターとの出会いです(振り返ればもう三年以上も前!)。


彼は急性の怪我に対しても「ほとんど」アイシングを使わないという考え方を持ったアスレティックトレーナー でした。これはアイシングをすると患部の循環が低下するからです。


患部の循環が低下すると何がよくないのか。組織の治癒に必要に不可欠な炎症のプロセス*が妨げられるからです (Falson &Verstegen, 2018)。


*アイシングと炎症の関係については、それだけで何本もの記事がかけてしまうほどなので、ここでの説明は割愛します。


「一般的に」アイシングは痛みを抑える目的や患部の腫れを抑える目的で使われることが多いと思います。


ここで注意が必要なのは、アイシングは腫れを「取り除く」作用はないということです。


その"程度"を「軽減させる」ことはできるとされていますが、すでに腫れ上がった患部をひたすら何時間、何日間も冷やしても患部に停滞している腫れを取り除くことは出来ません


これはまだ多くの人が勘違いしている点だと思いますし、大学院を出たアスレティックトレーナー ですらも間違った認識をしているケースもよくみられます。


実際、スポーツ医学が非常に進んでいるアメリカの現場ですら、怪我が起きたらとりあえずアイシングと電気("Ice and Stim")を行うアスレティックトレーナー が少なくありません。


腫れを取り除くには患部の環流を促す必要があります。ここに上記で触れた「過度な安静」がマイナスに働く理由があります。安静にすることだけを考えて患部を動かさなければ、循環が起きにくくなるからです。


当時のFC Dallasのメンターがアイシングの代わりに使っていたのはMarc Proという、パッドを貼って微電流を流し、筋肉を収縮させる器具。筋肉の収縮を利用して患部の循環を促すものです。

(Credit to Ohio Cryo)


それ以来、急性期の怪我にはアイシングとこの器具を使い分けてアプローチするようになりました。この理由については次回の記事で話したいと思います。


余談になりますが、「アイシング」と言って個人的に思い浮かべるのはプロ野球や高校球児のピッチャーが試合後に行う、肩をグルグル巻きにしてやるあれ。この辺りも時と場合に応じては考える必要があると思っています(今も多くのチームがやっているのでしょうか?)。


Compressionについて

(Credit to PhysioRoom.com)


圧迫についても、マイナス面はRestやIceと一緒です。圧迫をしすぎれば患部の循環が低下します。結果として怪我の治りが促進されない状況に陥ります。


RICE処置とともによく習うと思われるのはU字のパッドを使った足首の圧迫です。もちろんアスレティックトレーニングを学ぶ学生として、私も授業で習いましたし、足首の捻挫を処置するたびによく使っていました。


Marc Proと出会った3-4年前ほどからは、一部のケースを除いてはバンテージなどを使った圧迫は行っていません。


バンテージを巻いた方が良いか、それとも圧迫を避けて循環を促すべきか。状況に応じて使い分けています。


Elevationについて

(Credit to Medisquare)


患部の「挙上」については、上記にあげた"R", "I", "C"と違って、それを行うことによって発生するマイナス面はないのではないかと考えています。


基本的にRIC (E)を使わないので、選手に挙上をさせる機会は少ないです(ソファーでテレビ見る時は足上げながらみてね、くらいは今でも言いますが)。


しいてあげるとすれば、患部の腫脹を軽減する目的で行うEffleurage/Lymph massage (軽擦法)をする際にやるくらいでしょうか?(これもどこまで効果的かは難しいところですが)あとはNorma Techのようなリカバリーパンプを使わせる時など。


安静・アイシング・圧迫と比べると、そこまで議論を呼ばない項目であるかもしれません。


まとめ

  • "過度の安静"は患部の循環を低下させる

  • "過度のアイシング"は患部の循環を低下させる

  • "過度の圧迫"は患部の循環を低下させる

  • 状況に応じた適切なRICE処置の実施


以上、RICEに関する個人的な見解をまとめました。上記で"過度の"と強調したのは、必ずしもRICEを使うことが悪いことではないと考えるからです。


よっぽど痛みが酷い場合は、患部の固定をすることもありますし、アイシングをさせて痛みをとることにフォーカスする「時間帯」もあります。


状況に応じて適切な「ツール」を用いることが大切ですし、その選択が出来るようになるには、理論の裏にあるメカニズムをしっかりと理解していなければなりません。


次回はRICE処置の代わりに私が用いるアプローチについて、もう少し深く掘り下げたいと思っています(気が変わって違うテーマについて話しているかもしれませんが。。。笑)


では!


Akira


Reference


Falsone, Sue, and Verstegen, Mark. Bridging the Gap from Rehab to Performance. On Target, 2018.

閲覧数:228回0件のコメント
bottom of page