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  • 執筆者の写真Akira

アスレティックトレーナー の為のスポーツ脳震盪評価:オンフィールド編


アスレティックトレーナー にとって傷害評価は大きな責務の一つであり、非常に大切なスキルです。特に、コンタクトを伴うスポーツに置いてスポーツ脳震盪は避けては通れない道であり、スポーツの現場に最も近い専門家の一人としてスポーツ脳震盪の評価には精通していなければなりません。


本記事を含め前編と後半に分けて、練習や試合などの競技中のオンフィールド評価から、アスレティックトレーニングルームやクリニックなどでのオフフィールド評価までを前回の記事よりもさらに掘り下げて話していきたいと思います。


オンフィールドでの評価

(Credit to Board of Certification)


スポーツ現場に立ち会うことの多いアスレティックトレーナー にとって、スポーツ脳震盪が疑われる場面に遭遇することはよくあります。特にコンタクトスポーツではそれが更に顕著です。


一般的に、スポーツ脳震盪の評価として使われるのがSCAT 5 (Sport Concussion Assessment tool)ですが、細かな評価が含まれている為サッカーの様に試合の時間が止まらずに進行されるスポーツにはその使用は不向きです。


こういったスポーツに置いてはSCAT 5を簡潔にまとめたものを行う場合が多いです。


今回はサッカーの試合を例に取りながら、スポーツ脳震盪の評価についてSCAT 5に沿って挙げていきます。尚、SCAT 5は「For use by medical professionals only; 医療従事者の使用に限る」と記載されており、アスレティックトレーナー が民間の公認資格である日本に置いての使用はグレーです。


個人的には、SCAT 5を「初期評価のガイドライン」として使用して、その後医師の適切な診断を仰げば問題は無いと考えます。


1. 危険信号 (Red Flags)

選手が強いコンタクトに遭って倒れて起き上がれない時、例えばサッカーの試合では主審がメディカルスタッフをフィールドに呼ぶのですが、選手の所へ向かう際にすでに評価は始まっています


補足すると、現在サッカーの試合中主審がスポーツ脳震盪また頭部の怪我の疑いを感じた際は試合を即座に中断して、メディカルスタッフをフィールドに誘導するのが決まりになっています。


選手が頭部に接触を受けて倒れた時などは、スポーツ脳震盪の可能性を頭に入れて評価を始めます。始めにチェックすべきは危険信号、英語ではRed Flagsと呼ばれるものです。


これには首の痛み、複視、さらに酷いものだと意識喪失や癲癇(てんかん)などが含まれます。このような兆候が見られた時には、救急隊員が試合会場に控えていれば、彼らを選手の元に誘導し、そうで無い場合は病院に搬送するためにすぐに救急車を呼びます。


どのような怪我でもそうですが、まずは明らかな「危険信号」が無いかを確認することが評価の始まりです。


2. 観察兆候 (Observable Signs)

1の危険信号と重なる部分がありますが、選手の元へ向かう時や評価を始める際に、外見からみた選手の様子をしっかり観察することも重要です。


倒れ込んだまま全く動かない時は意識を失っている場合もありますし、ぼーっとしていて、意識が虚な様子などもスポーツ脳震盪の特徴的な兆候です。


これらの兆候を良く理解しておくことは、細かな評価へのスームズな以降に非常に大切になります。


3. 記憶評価 (Maddocks Questions)

次はマドックスクエスション(Maddocks, Dicker, & Saling, 1995)という評価ツールを通しての記憶のチェックです。SCAT 5上では「今どこにいるか」、「今前半か後半か」、「誰が得点したか」などの質問項目がありますがこの辺りは評価者の匙加減で変えても全く問題の無い所です。


加えて、私の場合はSCAT 5のOff-field assessmentの"Orientation"の質問項目に含まれる、「今日は何月何日」、「今日は何曜日」などの質問も合わせて聞いています。


スポーツ脳震盪の疑いのある選手の意識や記憶をフィールド上で簡潔にチェックするものであり、「厳密なスポーツ脳震盪の評価に置き換えられるべきでは無い」とSCAT 5の共にベルリンで発表されたConsensus statement (McCrory et al., 2017)でも述べられており、質問の内容はさほど重要ではありません。


4. グラスゴーコマスケール (Glasgow Coma Scale)

SCAT5のオンフィールド評価の最後の項目はGlasgow Come Scaleと呼ばれる、選手の意識や反応レベルの評価です。


個人的にはこの評価は3の記憶評価の前に済ませています。そもそも選手の意識がなかったら記憶の評価など出来ないと思うのですが、なぜこの評価が記憶評価の後に来ているかは記事を書いていて多少疑問に感じました(私より"遥かに"優秀な有識者の集まりによって作成されているので何らかの理由はあるはずですが。。。)。


評価の内容は点数の加算などもありここで説明するには少し細かすぎるので省きますが、このスケールの合計点が13点を下回る場合は救急搬送が必要と判断されます。



まとめ

以上が、SCAT 5のコンテンツの中で"オンフィールド評価"とされているものですが、実際にはこのほかに選手の主観的な症状、視覚や眼球運動のテスト、バランステストなどを総合的にみて選手がスポーツ脳震盪であるかどうかを判断します。


スポーツのレベルが上がるほど、アスレティックトレーナー やチームドクターにかかるプレッシャーは大きくなりますし、研究でも高い競技レベルの選手ほど症状を過小報告する割合が多いと言われています。


特に試合中は選手も興奮していますし、私の経験で言うと細かな評価をする為に選手をフィールドからおろそうとすると、決まって監督やコーチから文句が飛んできたりもします。笑


この辺りは日頃の信頼関係しっかりと築いたり(それでも試合中になると熱くなることは想定しておかなければなりませんが)、事前に「スポーツ脳震盪に関する決定に対して、コーチングスタッフは一切関与できない」という旨の書類にサインさせておくなど、フィールド外での根回しも重要です。


このようなプレッシャーがスポーツ脳震盪の評価を難しくすることは間違いありません。そのような状況下でも冷静に且適切・的確な評価を迅速に行うことがメディカルスタッフに求められます。


次回はオフフィールドにおけるスポーツ脳震盪の評価についてまとめます。


Akira


Reference


Echemendia, R. J., Meeuwisse, W., McCrory, P., Davis, G. A., Putukian, M., Leddy, J., … Herring, S. (2017). The Sport Concussion Assessment Tool 5th Edition (SCAT5): Background and rationale. British Journal of Sports Medicine, 51(11), 848–850. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097506


Maddocks, D. L., Dicker, G. D., & Saling, M. M. (1995). The assessment of orientation following concussion in athletes. Clinical Journal of Sport Medicine: Official Journal of the Canadian Academy of Sport Medicine, 5(1), 32–35


McCrory, P., Meeuwisse, W., Dvořák, J., Aubry, M., Bailes, J., Broglio, S., Cantu, R. C., Cassidy, D., Echemendia, R. J., Castellani, R. J., Davis, G. A., Ellenbogen, R., Emery, C., Engebretsen, L., Feddermann-Demont, N., Giza, C. C., Guskiewicz, K. M., Herring, S., Iverson, G. L., … Vos, P. E. (2017). Consensus statement on concussion in sport-the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. British Journal of Sports Medicine, 51(11), 838–847. https://doi.org/10.1136/bjsports-2017-097699

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